10年ぶりの一杯

気がつけば、ブログの更新が半年も空いてしまいました。
この間も、さまざまな出来事がありました。
その中でも、私の人生にとって大きな転機となった事をお話しします。
それは、約10年ぶりにお酒を飲むことができたという話です。

発症前の生活と、突然訪れた禁酒

私は発症前、お酒を楽しむ生活を送っていました。
仕事帰りに同僚や友人と居酒屋に立ち寄り、何気ない会話を肴にグラスを交わす時間が何よりの楽しみでした。
週に2〜3回は外で飲み、時には朝まで語り明かすこともありました。
お酒は、単なる嗜好品ではありませんでした。
人とのつながりを深めてくれる、大切な存在だったのです。
しかし、脳梗塞を発症したことで、その日常は突然終わりました。
命は取り留めたものの、後遺症として嚥下障害が残りました。
飲み物を安全に飲み込むことが難しくなり、誤って気道に入るリスクを避けるため、液体の摂取が大きく制限されました。
肝臓などに問題があったわけではありませんが、物理的に飲むことができなかったため、自然と禁酒生活が始まったのです。

嚥下障害と“とろみ”の葛藤

嚥下障害では、飲み物に「とろみ」を加えることで、飲み込みやすくするのが一般的です。
しかし私にとって、この「とろみ」が大きな壁となりました。
入院中の病院食では、味噌汁やスープなどに強いとろみが加えられていました。
もはや液体というより、「半ばペーストのような状態」という印象でした。
病院が誤嚥を防ぐために、配慮してくださっていたことは理解しています。
ですが、その強いとろみに毎食苦しみ、「とろみ=苦手なもの」という感覚が自分の中で定着してしまいました。
最近、粉末のとろみ剤で濃度を色々と調整してみました。
その結果、最もゆるいとろみでも十分に飲めることがわかりました。
それでも、粉末タイプのとろみ剤は扱いにくく、液体によってはなかなか溶けず、ダマになることも多くありました。
特にアルコールとの相性は悪く、とろみがうまくつかなかったり、味を損ねてしまうこともありました。
お酒を飲めなかったのは、“禁止されていたから”ではありません。
“物理的に飲めなかった”のです。

思いつきが導いた「液体とろみ剤」との出会い

そんなある日、ふと頭に浮かびました。
「とろみ剤が粉末ではなく液体だったら、もっと簡単に溶けるのではないだろうか」
この思いつきから調べてみたところ、実際に液体タイプのとろみ剤があることを知りました。
さらに驚いたのは、炭酸飲料にもとろみをつけられると記載されていたことです。
つまり、長年あきらめていたビールにとろみをつけて飲むということが、現実になる可能性が出てきたのです。
すぐにその製品を取り寄せ、試してみることにしました。

⇒⇒ 液体のとろみ剤

妻とふたりで迎えた、10年ぶりの一杯

人生を変えた最初の一杯は、外食でも特別なイベントでもなく、自宅で妻とふたりで静かに迎えた夜のことでした。
グラスにビールを注ぎ、液体とろみ剤を丁寧に加えて、炭酸が抜けないようにゆっくりとかき混ぜました。
緊張と期待の入り混じる気持ちで、私は10年ぶりのビールをそっと口に運びました。
口の中に広がる苦味、鼻を抜ける香り、舌に残る泡の感覚――
そのすべてが、一瞬にしてかつての記憶を呼び覚ましました。
私は禁酒中も、お酒の味よりも「香り」の感覚を何度も思い出していました。
あの鼻に抜ける瞬間の余韻。
それが、久しぶりに自分の体の中で蘇ったのです。
飲んだ瞬間、言葉が出ませんでした。
10年間あきらめていた感覚が戻ってきたことが、ただただうれしく、胸が熱くなりました。
妻と目を合わせて、ゆっくりとグラスを重ねたあの瞬間の静かな幸福は、一生忘れないと思います。

仲間との再会、そして息子と交わしたい未来の一杯

お酒を再び飲めるようになったことで、かつての飲み仲間たちとも再会の機会が生まれました。
「また一緒に飲めるなんて信じられない」と言いながら、皆が心から喜んでくれました。
乾杯を交わし、昔のように語り合える時間が戻ってきたことは、何よりもありがたく尊いことです。
そして今、私にはもう一つの夢があります。
それは、息子と一緒にお酒を飲むことです。
本当は、彼が20歳になったときに「一緒に飲もう」と自分の中で決意していました。
しかしその頃、私は病気を発症し、禁酒生活に入っていたため、その約束は果たせませんでした。
息子は今、24歳になりました。
もし今あらためてふたりで飲めるなら、単なる祝いの乾杯ではなく、仕事や人生の悩み、恋愛の話――そんな話を静かに交わせる時間になるのではないかと思うのです。
できれば、焼き鳥屋のカウンターで肩を並べ、「一杯だけ付き合ってくれよ」と声をかけてグラスを傾ける――。
そんな日を、心から待ち望んでいます。

楽しみを取り戻すということ

長い間、あきらめていた“当たり前”の時間を、少しずつ取り戻せたことは、私にとって大きな希望となりました。
病気によって多くのことを失いましたが、工夫と諦めない気持ちによって、取り戻せることもあるのだと今回の経験が教えてくれました。
同じように、制限のある生活を送っている方や、何かを我慢している方がいらっしゃれば、この体験がほんの少しでも励みになればと願っています。
そして、次は息子との乾杯を目標に。
これからも自分のペースで、一歩ずつ前に進んでいこうと思います。

親子が居酒屋のカウンターで楽しげにビールを飲んでいる姿
AIの手にかかると、こうなりました。盛りすぎです。
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