飲めないこと

嚥下障害は「食事や水分を摂る」という、生きていく上では不可欠なことに問題が起きます。
特に水分が摂れないことは、飲酒はもちろんの事、自分の唾液さえも飲み込めません。
そんな体になって、いつも思っていたことを書きます。

この病気を発症する前、「嚥下障害」という言葉さえわたしは知りませんでした。
後遺症で嚥下障害が出るのは、ワレンベルグ症候群の特徴だと思います。

発症直後は「脳梗塞になった」ということだけで頭が混乱して、自分の体の状態を良く理解できませんでした。
嚥下障害は痛いなどの症状がなく、何も口にしなければ気づきません。
しかし、コップの水を飲んだときに異変に気づきました。
水が喉を通ることなく、逆流して鼻の穴からすべて吹き出すのです。

嚥下障害は発症直後の一時的なもので、いずれは改善し元の体にもどれるものだと勝手に思い込んでいました。
その後、嚥下改善に向けて長いリハビリを続けることになります。
リハビリすることで状態は少し良くなりましたが、発症前のような食べ方はできません。
特に水分は無理に飲み込もうとすると、気管に入って激しくむせてしまいます。

嚥下障害を改善する手術を知り、それも受けました。
手術によって固形物の飲み込みは改善しましたが、水分の飲み込みは改善しないまま今に至ります。
ある先生に教わったことがあります。
ワレンベルグ症候群になると、約20%の患者に嚥下の問題が起きるそうです。
その20%の中の、さらに20%に嚥下障害が後遺症として残るそうです。
私はその少ない確率の中に入ってしまったようです。

水分が飲み込めない状態が続き、もう改善しないだろうと自分で諦めたときに考えたことがあります。
20代、30代は毎日のようにお酒を飲んでいました。
わたしはお酒が強い方で、飲めばかなりの量を飲みます。
40代になってから自分の体を少しは心配するようになって、飲む回数を減らしました。
回数は減らしたのですが、量は相変わらず飲んでいました。
日本酒、ワイン、カクテル、洋酒、それに中華を食べれば紹興酒も飲みます。
アルコールであれば何でも好きでした。

こんなわたしが嚥下障害になって、「お酒が飲めなくなったことは、さぞかしショックだろう」と思われがちですが、実はそれ程ショックではありませんでした。
年齢的に「そろそろお酒の量は減らさなければ」と思っていた矢先のことでしたので、割とあっさりと受け入れました。
(受け入れるしかなかったのは事実ですが……)

しかし同じお酒のことですが、あることを考えると涙が出るくらい悲しいことがあります。
先日、息子の誕生日でした。
わたしには子供が一人しかいません。
その、唯一の大切な息子が誕生日を迎えました。
それも二十歳の誕生日です。

息子をもつ親で、お酒を飲む男親ならやりたいことがあります。
そうです。成人した息子とお酒を酌み交わすことです。
それが、今の私にはできないのです。
そのことを考えると、いつも悲しい気持ちになりました。
いつか息子が大人になって、カウンターに二人並んでお酒を酌み交わすことは、息子ができた瞬間からの夢でした。
それができないことが、とてもとても悲しいのです。
が、ついに息子が二十歳の誕生日を迎える日がきました。

その日は、息子の好物な焼肉を食べに行きました。
コロナ禍もあって、奮発して個室のある焼肉屋に行きました。
ついこの前まで、よちよち歩きをしていた息子がもう二十歳です。
子供が成長するのはあっという間です。

さてさて、息子とお酒を酌み交わすことが夢だったわたしですが、その日はどうしたかと言うと……

実のところ息子はお酒を飲まないのです。
もちろん先輩と居酒屋に行って、少しはお酒を口にしたことがあるらしいのですが、まったく好きにはなれなかったみたいです。
これからもお酒は飲まないだろうと息子は言っています。

たとえわたしがお酒を飲める体であっても、結果的には息子とお酒を酌み交わす夢はかなわなかったのですが、それはそれで少し寂しかったと思います。
それでも、二十歳になって少し頼もしく見える息子と食べた焼肉は、このうえなくおいしかったのは間違いありません。
「起きた結果に対して責任を持つ大人になって欲しい」そう伝えて、息子の誕生日会を終えました。

焼肉

2件のコメントがあります

  1. レオンありがとう。楓汰会いたい。 さん

    素敵な息子さんの誕生日のお祝いでしたね、実は私の息子も11月で20歳になりました。私の場合は嚥下にはそれ程問題なく、24時間の目眩です。
    時々私も嚥下が100%ではないので、やはりサラサラした飲み物を飲んだり、生ぬるい物を飲む時に気管支に入り激しくむせる時があります。かなり酷い嚥下障害はさぞかしお辛いと思います。
    痛みも時々、強く出ますが、タリージェを7.5mg処方され治まっています、その代わりの副作用の目眩が出ます。
    ワレンベルクは人様々で、辛いです。
    子供の健康な成長が私の1番の願いであり、楽しみです。辛くても希望があります。

    1. のすけパパ

      こんにちは。
      おっしゃるとおり、子供の健康な成長が一番の願いですね。
      しかし、子供の成長は早いですね。
      ついこの前まで、目に入れても痛くないと思っていましたが、
      この頃は息子の部屋に入ると、なんだか男臭いのですよ(笑)
      「早く家から出て一人暮らししろ」と言っているのですが、ほんとに出ていったら
      寂しいんだろうなと想像しています。

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