十年は生き延びた ④嚥下障害

「嚥下障害」、テレビで耳にした記憶はあります。
しかし、発症前は自分から口にしたことはありません。
意味は分かっているつもりでした。
それでも「食べられなくなるのは、さぞかし大変なのだろう」程度の理解です。
自分が当事者になるとは、頭によぎったこともありません。
「嚥下障害」、ワレンベルグ症候群の特徴的な症状です。

今回は「症状の変化」の四回目です。
ここでは、嚥下障害に焦点を当ててみたいと思います。

「延髄外側の梗塞による嚥下障害の発生率は、おおよそ3割である」
当時の記憶が正しければ、医師からこう聞きました。
「嚥下障害が発生した内の、さらに3割が後遺症として残る」
続けて、このようにも聞きました。
たとえ嚥下障害が発生しても、多くの方は回復するのです。
そうなると、全体の約1割で嚥下障害が後遺症として残ります。
私は残念ながら、その1割に入ってしまったことになります。

脳梗塞の発症後、すぐに嚥下障害に気づきました。
水を飲むと、水が鼻から吹き出すのです。
何度か試してみましたが、症状は変わりません。
検査を受けると、嚥下障害と診断されました。
入院中の栄養摂取は経鼻経管栄養で行います。
この状況は数ヶ月続きました。
嚥下の検査以外では、口から食べられずにいました。

発症直後は嚥下障害を楽観視していました。
同じ症状で回復した事例をインターネットで見つけました。
前述の医師からの話と併せ、自分では必ず回復すると信じ込んでいました。
しかし、リハビリを続けましたが、目覚ましい改善はしませんでした。
食物を飲み込めるようにはなりましたが、個体は柔らかくして小さく刻む必要があります。
液体はまったく無理です。
液体は飲み込むと気管に入ってしまい、誤嚥して激しく咳き込みます。
健常者は「喉頭蓋」という組織が、飲み込んだものが気管に入ることを防ぎます。
私は喉頭蓋が麻痺して動かないようです。
ラーメン等もスープが気管に入ってしまうため食べられません。
液体を飲み込めない問題は解消されず、そのまま退院しました。

その後、「咽頭筋」という喉の筋肉を切除する手術を受けました。
手術後は個体を柔らかくしなくても飲み込めるようになり、嚥下は一歩前進しました。
液体はまだ無理なままです。

さらに、唾液が飲み込めないという問題もありました。
唾液も液体ですが、誤嚥とは別の問題で飲み込めません。
通常、嚥下時には喉の奥が収縮し、食物を食道へ押し込むように動きます。
私の場合はその収縮も麻痺しているようです。
唾液のような粘性のある液体は重力で食道に流れることはなく、喉の奥に滞留します。
滞留した唾液は吐き出すしかありません。

嚥下障害のまとめは以下のようになります。

  • 完全な液体は誤嚥し、液体を多く含む食べ物も誤嚥することがあります。
  • 誤嚥しないように注意深く食事しますが、それでも誤嚥して激しく咳き込むことがあります。
  • 咳き込むと周囲に迷惑をかけるため、外食する勇気が出ません。
  • 唾液は定期的に吐き出さなければなりません。

前置きが長くなりましたが、現在の状態は以下の通りです。

  • 完全な液体でも、少量ずつなら誤嚥せずに飲み込めるようになりました。
  • 鍋物やラーメンなどの液体を多く含む食物も、注意すれば食べられるようになりました。
  • 誤嚥しての激しい咳き込みは、随分と頻度が下がりました。
  • 依然として唾液だけは飲み込めません。

十年前と比べれば、大きく改善したと言えます。
それでも麻痺していた筋肉が、動くようになった自覚はありません。
誤嚥をしにくい飲み込み方を身につけ、誤嚥の頻度が下がったのが大きく改善した要因だと考えます。

今の状態で、ラーメンを食べられることは大きな喜びです。
週末には家族と一緒にラーメンを食べに行くことが、今は日課となっています。

おいしそうなラーメンの写真

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