発症直後は安静状態でベッドの中にいたから、体の異常について自分でちゃんと認識できていなかった。
手や足を動かしてみれば、普通に動く。
触ると感覚もある。
ただ、天井は二重に見えるし、唾の飲み込みができないことには気付いていた。


自分では体の異常を認めたくなかった。
認めたくなかったと言うよりは、認めるのが怖かった。
看護師さんからの検査で、いくつかの異常を認識することになった。
その時はあまり深く考えないようにした。
しばらくしたら治るのではと楽観的に考えていた。
事実、物が二重に見える複視は、早い時期に症状が消えた。
他の症状も、消えるか、あるいは気にならなくなるのではと軽く考えていた。

リハビリを始める頃には、さらに色々な症状に気付いた。
平衡感覚が無くなっていること。
ちから加減がうまく制御できないこと。
感覚で手足を動かした場合に、期待している位置からずれることなど。

自分の異常を認識していって、ある程度の期間はリハビリが必要なことも自覚した。
大きな病気にかかったことも冷静に受け止めつつある。
だから「せめて歩けるようにだけはなりたい」とはじめに思った。
一生、車いすだけは避けたいと。

でも「歩けるようだけはなりたい」から
「車の運転もしたい」
「少しぐらいは走りたい」
「自転車にも乗りたい」
と、欲がだんだんと増えて行く。

毎年、夏は沖縄に行って、子供とシュノーケリングを楽しんだ。
だからシュノーケリングができる体に戻りたいと思った。
私はスキーが得意だった。
子供と一緒にスキーはまだやっていない。
だからスキーができる体に戻りたいとも思った。
もちろん「元の体に戻りたい」が究極なのだけど。

回復を諦めるつもりはない。
これから一生リハビリだと思っている。
だが温痛覚などの感覚の障害は、発症後からほとんど変化しないとも聞いている。
戻るのに長い時間が必要なこともあるし、すべてが元に戻るわけではない。

「欲」と「現実の認識」と「割り切り」と。
でも「地道な努力」と「諦めない精神」と。
結局は健康なときと同じ…。

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