ただいま

急性期病院を一か月半、回復期リハビリテーション病院を四か月、合計で約半年間の入院生活に終わりを告げ退院した。
入院した時は救急車のため、取るものもとりあえず自宅を出た。
それから「やっと」自宅に戻ってこれたのである。


妻が車で病院に迎えに来た。
お世話になった看護師さんやセラピストの皆さんに、妻と一緒に退院の挨拶を行う。
看護師さんに「戻ってこないようにね」と言われた。
心にズシンと響く。
退院しても病院外で生活が難しく再入院する方がいる。
病気が再発して再入院する方もいる。
いずれにせよ病院に戻らぬようにと願う。

たくさんの荷物を車に載せて病院を出発した。
大半の荷物は入院中にいただいた見舞いの品々だ。
事前に見舞いの連絡があった場合は、嚥下障害であることを伝える。
そうなるとお菓子などを避けて、色々なものをいただく。
四か月間たくさんの方々に励ましてもらったしるしだ。
捨てるわけにはいかない。

自宅に到着。
玄関を開けると、住んでいる時はあまり気付かない家の匂いを感じた。
わが家の匂いである。
匂いすら懐かしく思える。
宇宙戦艦大和の艦長、沖田十三風に言うと、
「自宅か……何もかも皆懐かしい」である。
うたた寝をよくしたソファ、好きなパーツを選んで自作したパソコン、趣味のオーディオ、家族で楽しく食事した食卓(たまに子供に小言を言ったけど)、本当に皆懐かしいである。
やっと家に帰ってこれたんだと感じる。
「ただいま」である。

しかし自宅に戻って早速いくつか困ったことがあった。

まず水道である。
ワレンベルグ症候群での温痛覚障害では、温度を感じないだけでなく、冷たさが痛みに変わって感じる場合がある。
私も発症直後は温度が分からないだけだったが、徐々に痛みとして感じるようになった。
自宅のトイレの手洗いは温水が出ない。
また洗面などでも、蛇口をひねってすぐに温水にならない。
この季節だから水はとても冷たく、触れると痛みが走る。
おかげで恐る恐る温度を確かめながら水に触れることになった。

同じく温度の問題であるが、居室以外は暖房がない。
洗面所やトイレなどは温度がかなり低い。
何処でも暖房が行き届いている病院とは違うのである。
この温度差が、どうも顔面の視床痛の引き金となるようだ。
寒い洗面所にいると、顔面の痛みが始まる。

杖なしで歩けるとは言え、フローリングは危険だ。
油断すると滑りそうになる。
健康な頃のように踏ん張りが効かない。
滑って怪我をするのは避けたい。

だが、やっと自宅に戻ってきたのだから、この程度は大した問題ではない。
工夫しながら慣れていくしかない。
また家族と一緒に過ごせるのだから。

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