「ワレンベルグ症候群で嚥下障害が出たら」の5回目です。
「ワレンベルグ症候群」は症候群と言うのですから、正にいろいろな症状の集まりです。
それぞれの症状の重さは人によって異なりますが、症状の種類はおおよそ同じです。
人によって感じ方は違うとは思いますが、私は嚥下障害が最も自分の症状の中でつらいものです。
今回は嚥下障害の一番の課題である「口から食べる」ことについて書きたいと思います。
前回も書いたとおり、脳梗塞の発症から四か月間、私は経鼻栄養のみで生きてきました。
毎日毎日、口から食べることを思い浮かべながらリハビリを続けました。
経鼻栄養で四か月も過ごせたのは、「いつかは口から食べられるようになる」との強い思いからだと自分でも思います。
「まったく普通に戻った」とまでは言えませんが、今では家族と一緒に食事をすることも可能になりました(食べるものは限定されますが)。
食事は単に「栄養をとる」こと以外に、楽しみと感じることのひとつでもあります。
おいしいと感じることは、もちろんそれだけでも快感です。
でもそれ以上に食事を通して、親しい仲間や家族と時間を共有することが、とても大きな楽しさと私は感じています。
口から普通に食事をすることができないのは、痛さとは違う別のつらさがあります。
「つらい」と言うよりかは、「悲しい」といった方が近い表現と感じます。
話は少々脱線しますが、私には息子が一人います。
私は根っからの酒好きだったので、息子が成人したら息子と一杯やることが夢でした。
息子を持つ酒好きの親なら、一度は考えることではないでしょうか?
そして、息子もいつかは結婚するときが来て欲しいと願います。
結婚式の披露宴では、普通は食事を振る舞います。
嚥下障害になった私は、お酒を飲むことも無理ですし、人前で食事することも無理です。
どちらも諦めることとなってしまいました。
取るに足らないことですが、そんなことも考えたりします。
嚥下障害を克服するには、自分の体の「何」に問題が発生したのかを把握することが大切だと思います。
その上で、自分が「飲み込みやすいもの」を見つけ、「誤嚥しやすいもの」は避けて食事の訓練をしていくことが必要です。
食物を飲み込むことは、
- 軟口蓋の動き
- 喉頭蓋の動き
- 食道入口部の動き
- 咽頭、喉頭の動き
これらのいずれか、あるいは複数に問題が発生して飲み込みにくくなります。
問題が発生するということは、以下のような状態になっていると考えられます。
- 食道入口部がわずかにしか開かないため、食物が通りにくい
- 食道入口部に食物を押し込む「ちから」が弱い
- 気管の封鎖が不十分なため、誤嚥する確率が高い
結果、以下のようなものが飲み込みにくかったり、誤嚥したりします。
a. 団子状のかたまりになって、形がくずれにくいもの
b. 重さがあまりなくて、重みで食道入口部を通過しないもの
c. バラバラに散らばりやすく、飛んで気管に入りやすいもの
(a)に該当する例は、意外にもパンです。
パンはかむと、団子状の硬いかたまりになってしまいます。
(b)に該当する例は、「はんぺん」などです。
ただし、良くかむことによって唾液と混ぜ重さを増やすことはできます。
(c)に該当するのは液体です。
高野豆腐のような、かむと液体がしみ出るものもダメです。
「かまぼこ」などは、かむとバラバラになるのでこれもダメです。
チョコレートも実はダメです。
チョコレートは唾液で溶かして食べるので、結局は液体になってしまいます。
逆に飲み込みやすいもので分かりやすいものは米系のものです。
炊いた米は
- もともと小さい粒で、形が変わりやすいかたまりになる
- 水分を含んでおり、重さがある
- 適度な粘度がありバラバラにならない
なので、飲み込みやすいのです。
もちろんゼリー、プリン、ヨーグルトは飲み込みやすい代表です。
何が飲み込みやすいのか、何が飲み込みにくいのかは、慣れてくると食べなくても予測ができるようになります。
しかし、当事者以外がそれを行うのは難しいものです。
私も退院したての頃は、妻が良かれと思って作った料理が、飲み込みにくいものだったことが何度かありました。
今では妻の理解も深まって、私に合った料理を作ってくれます。
- 小さく刻む
- 水分をきる
- よく煮たりするなどして、やわらかくする
- 粘度の高いものとあわせる、あるいはトロミを付ける
などの工夫をしてくれています。
口から食べる訓練を行うか否かは、誤嚥とのてんびんです。
誤嚥は命にかかわることなので慎重になる必要はありますが、「口から食べる」ということは生きる気力に関係します。
諦めずに訓練を行うことが大切と思います。
私は何でも食べられるわけではありません。
お酒やお茶の液体を飲むことはできません。
話すと誤嚥するので、食べながら話すこともできません。
飲み込めなくなった時には吐き出す必要があるので、他人と一緒に食事はできません。
それでも口から食べられないことに比べれば、圧倒的にしあわせです。